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誰かにそっと手渡したい—富士のふもとの名建築で

  • 執筆者の写真: daichi-takano
    daichi-takano
  • 2025年11月22日
  • 読了時間: 4分

更新日:2025年11月24日

富士山のふもとに、

ひっそりと佇む一軒のアトリエがあります。


1991年に建てられたその建物は、

年月を重ねたはずなのに、

古びていくというより、

“深まっていく”という言葉がよく似合う。


版画家のためにつくられた家。

象設計集団による設計で、

左官は久住章さん。

木造と鉄筋コンクリートが寄り添うように混ざり合っている。

どこを切っても、

いまでは簡単には再現できない手仕事の密度があります。


ただこの建物は、技術がどうこうという前に、

“思い”で成り立っている家なのだと思います。



曲線がつくる、やわらかな風景

この家には、直線というものがほとんど現れません。


壁も、天井も、階段さえも、

ゆっくりとうねりながら続いていく。


まるで建物全体が、ひとつの大きな生き物のように身じろぎして、

人を包んでくれているようです。


部屋をゆるやかに仕切っているのも、

四角い壁ではなく、

土の塊のような丸いボリューム。

その中心には土色の円柱が立ち、

その横には青い柱がすっと伸びている。


この“青”がいいんです。

土に染み込む静かなアクセントになっていて、

家全体のリズムを整えている。



光が落ちてくる場所

この建物には「光の井戸」が二つあります。


天井に空いた丸い穴から、

真っ直ぐに光が落ちてくる。

曲線でつくられた空間の中で、

光だけは迷わずに降りてくる。


その光が壁をなでるように流れ、

陰影がゆっくり動く。

この家が時間を刻むのは、時計ではなく、

光の動きなんじゃないかと思うほどです。


季節や天気でまったく違う表情を見せるので、

住む人にとっては、それが毎日の小さな楽しみだったのではないでしょうか。



階段を歩くときに感じること

白い階段は、

ただ上り下りするためのものではなく、

空間の一部としてそこにある。


滑らかな壁に寄り添いながら上るその時間は、

洞窟から外へと抜けるときのような

ほのかな緊張と解放があって。


建築というのは、

こういう“わざわざ”があるだけで、

ずいぶん豊かになるものです。



友人とつくった家

この家は、設計者である樋口裕康さんと、

建て主さんが学生時代からの友人だったことから始まっています。


施工の期間、

現場には飲食店がほとんどなくて、

泊まり込みで作業が続いたそうです。


段ボールをテーブル代わりにして食事をしていたある日、

「せっかくだから、ちゃんとしたテーブルを作ろう」

そんな話になって。


そのときにつくられたのが、いまもホールに置かれているローテーブル。


建物のために家具をつくるのではなく、

暮らしの中から家具が生まれている。

それがまた、この家らしいなと思うのです。



手を入れるたびに見えてくるもの

家族が庭の手入れや掃除をするとき、

しゃがんだ姿勢からふと見える場所があります。


その細部のひとつひとつに、

樋口さんのこだわりが仕込まれていて、

「この家は、本当に丁寧につくられていたんだ」と

誇らしくなる瞬間があったといいます。


建物というのは、“使うことで気配が浮かび上がってくるもの”ですが、

この家はそれがとても顕著です。



作品が生まれる場所としての家

窓から見える自然や、

この土地特有の静けさ。

光と影のゆっくりした変化。


そうした環境から影響を受けながら、

多くの作品がこの家で生まれていきました。


建築と自然と創作が、

切り離せない関係になっている家。

住むというより、

“共に過ごす”といったほうがしっくりきます。



古いから壊す、ではなく

不動産の現場では、

30年を超えた古い建物が“価値がないもの”として

あっさり判断されてしまうことがあります。


けれど、この建物に触れていると、

古いということが、

そのまま価値になっていると感じる。


素材の風合いも、

空間の奥行きも、

そこに流れてきた時間の重さも。


どれも、いま壊してしまったら二度と戻らないものばかりです。

次の誰かに、そっと手渡したい

建て主さんは言います。

「学生時代からの友人が、 

全身でつくってくれた建物です。 

思い入れがあるからこそ、 

壊すのではなく、次の人に引き継ぎたい。」


その言葉には、

建物への愛情と、

つくった人への敬意と、

この家で過ごした時間の温度が込められています。


建物というのは、最後の最後まで、

人の手で守られていくものなのだと思います。




壊す前に、できることがある

もし、

この建物の写真を見て、

何か心に触れるものがあったのなら。


決めてしまう前に、

そっと声をかけてください。


壊さない方法は、きっとまだいくつもあります。

そして、この家はまだ、生きていける。


“この家を残したい”

という思いに触れてくださった方へ。


もし、この建物のこれからについてもう少し知りたいと思ってくださったら、

僕たちまでご連絡ください。

 
 
 

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